念願叶う -筑波大学附属中学校訪問

f:id:takaenglishteacher:20140130093609j:plain 英語科準備室の入口・・・

 

 今日はキャンパスデーでしたが,修士論文を提出し終えたこともあり,指導教官の許可を得て,念願だった筑波中学校を訪問することができました。

 

先方の英語科の先生方,そして,所属長である校長先生宛の正式文書を送った上で,しっかりと正規ルートで参観をしました。通常の日課をこなしながら参観を許可していただいたことを,読み手のみなさんにも伝えておきます。

(安易に・・・とならないようにお願いします)

 

今回は,蒔田先生のご厚意で,4人の先生の授業を1時間ずつすべて参観することができました。本当に恵まれていたと思います。

 

ミクロな視点での参観は,一見さんで,1時間しか参観できないのにすべてを理解することはそもそも無理になります。

 

だからこそ,自分が修論で研究を行った視点を中心に,絞って,マクロに,を合言葉に参加をしてきました。

 

筑波中学校の英語科の先生方のチームワークのすばらしさは,以前から知っていることではありました。でも,今日感じたのは,チームワークのよさも当然でしたが,先生方が自分のteacher's beliefを曲げることなく,それぞれの個性やよさを存分に発揮していたことでした。

 

無用な遠慮はいらないのだ,ということを改めて感じました。

 

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また,やはり,この部分の指導は大切なのだ,筑波中学校でも相当に重視している,ということが確認できたのも大きかったです。

 

 

先生方の授業から学んだことを,列挙してみます。 何かの参考になるでしょうか。

 

 

<久保野先生の授業から>

 

    オーラル・イントロダクションというよりも,オーラル・インタラクションが展開されており,先生は,生徒のつぶやきを拾い,それをつなぐことを自然に行っている。

    職業名を導入,練習するための必然性や必要感を持たせるために,コンテクストを作っている。ジュンナさんの話題を自然に取り入れ,ジュンナさんの幼少期の夢,そして,それが今どんなふうに変化してきたか,を理解可能な英語に置き換えてクラスでシェアしている。その後,職業名を自然に導入していかれた。

    「夢」を表現させるのは,中2には難しいことから,人気のある職業,実際になるのが難しい職業,など,to不定詞を用いながら,無理のない,実際に運用される形でやりとりされるように工夫をしている。

    こうしたオリジナルな導入部分のインタラクションの最後で,日本で中学生に人気の・・・という流れから,教科書本文につながる伏線を張っているところは圧巻でした。

新出単語に,対義語を自然に忍ばせたり,例文を数多く取り入れたりしながら練習をされていました。

      英語を聴く,英語でやりとりをする,英語を口にする,ということを,生徒たちがたくさん行っていました。

      指名をしたり,つぶやきを拾って発言をさせたり,疲れからオフになりそうな生徒を上手に授業に引き戻したり,生徒のモニタリングが丁寧であると感じました。

      最後のところで,先生が自己開示をし,漫画の話題から新たなインプットを与えたり,そこからターゲットに絡めたりと,これまで公開授業を拝見させていただいたときよりも,より一層,授業の展開について,その構成力に感心しきりの1時間でした。

 

 

 

<蒔田先生の授業から>

 

      先生の音への意識の高さはこれまでも学ばせていただいてきたことではありましたが,今回こうして改めて日々の授業の一こまを参観させていただいて,私の理解をさらに越えて,音を大切にされていることが分かりました。先生のそうした姿勢が,生徒たちに理解され,シェアされているため,生徒の音声がすばらしい(伸びている方向性を持っている)と思いました。

   音声だけではありませんが,子どもたちのモニタリングがすばらしいと感じました。先生が授業中に教室内を動いた動線を結ぶと,移動距離が長く,教室内をくまなく動かれていることが分かります。また,生徒のつまづきの中で,これは,と思うものを見逃さず,それを拾い上げ,生徒たちと共有し,彼らの問題意識を喚起しながら,改善に向けてのアドバイスを出されていました。50分の授業を,40~45分で構成し,残りの5~10分を柔軟に扱えるような授業デザインをされているのではないかと感じました。また,単元(またはそれ以上の)のような中長期スパンを持っておられて,次の時間も含めた授業デザインをしているのだろうと感じました。

      発問を投げかける前の「間」づくり,発問を投げかけてからの「間」づくり,が絶妙でした。生徒が自分の考えをもち,言語化するまでには時間がかかります。そのために必要な間を,生徒の表情や身体から判断しつつ,確保していると思いました。

      日頃,生徒は質問される側,教師は質問する側,にどうしてもまわりがちですが,生徒に質問をするイニシアチブを持たせ,先生がそれに応じる,という流れは,このところ私自身も意識して行っていたので,共感できる部分が大きかったです。

      フレームのある基本練習を十分させ,その後自分自身の内容でペアでの対話をさせておられました。昨年ライブで参観した稲岡先生の授業との共通点を感じました。対話のフレームに頼りすぎず,自分のことばを自分でひねり出そうとして語っている様子が見られました。ワークシートに依らないことから,顔を見合わせて,笑いを共有しながら対話をしている様子もたくさん見られました。

      私の修士論文で注目したのは,先生のfollow-upでした。先生が,生徒の発話の内容を受けたdiscoursalな返しが大事なことは分かっていたのですが,蒔田先生の返しは,そこに「ほんもの」の感情,表情,声の表情が乗っていました。これが生徒にとってのすばらしいモデルになっていると思います。Formを正確に扱う,という意味ではなく,good communicatorとしてのロールモデルになっていると思いました。

 

 

 

<植野先生の授業から>

     先生の準備された資料の細やかさ,濃密さに授業の前から感心しきりでした。準備の段階で相当な労力をかけておられるのだと思いつつ,ただ量がすばらしいのではなく,何を取り上げるか,そして,それをどう使うのか,という発想力にも驚きました。

      植野先生が積極的に自己開示(情報,という視点だけではなく,イラスト,語り方,伝え方など広く)をされており,生徒がそれを好んでいることがとてもよく分かりました。

      3年生らしく,大人の反応なのですが,先生の一言一言に,口元を緩め,ほほ笑んだり,隣の生徒と顔を見合わせて笑ったり,柔らかに反応していました。トピックを先生と生徒がシェアしている好例だと思いました。

      生徒が先生の英語力に憧れ,一目を置いていることが,彼らの表情からよく読みとれました。あんなふうになりたい・・・という意味でのロールモデルになっていると思いました。英語に関して,尊敬,をしているのだと思います。 私には到底たどり着けない部分でもあり,羨望の眼差しで見つめさせていただいていました。

 

      ほんものの素材を取り入れることのインパクトを改めて体感することができました。ことばではよく,感情を込めて・・・と要求することがありますが,それでは具体は,と問われると,困ってしまうことが多々あります。 生徒の知的好奇心を刺激しつつ,ほんものを示すことで,言葉の表情,音量,スピードなどを実感させることができると思います。

 

   多読をさせつつ,巧みに精読もさせているのだと感じました。テンポよく進む流れで,ストレスなく生徒たちが読み深めている様子が実感できました。

 

 

<肥沼先生の授業から>

     6時間目にも関わらず,生徒の声の張り,音量,一体感がある,と驚きながら授業を拝見していました。

 初出の言語材料を即インプットするのではなく,既習の時制,既習の言語材料を絡めながら,導入し,意味や形式の違いに生徒自身が気づくことのできる自然な授業デザインだと感じました。

      生徒と先生との関係性がにじみ出ていました。生徒の身のこなし,生徒の顔,そして視線の先に,肥沼先生が常におられたと思います。これが6時間目ですから,驚きでした。自分の教室,自分の目の前にしている子どもたちを想起しながらの参観になりました。

 

      生徒個々の情報を先生自身がよく知り,formだけでなく,そこに実際の生徒の本物の情報を乗せて,topic sharingをされていると感じました。話題になっている生徒のはにかみながらも嬉しそうな表情や,それを聴いている生徒たちがactive listenersになっていることがよく分かりました。

      肥沼先生は,シンプルに生徒をよく褒められます。認められると生徒は嬉しく,モチベーションが上がるのだと思います。

 

      肥沼先生の場合は,教科書を閉本させて,リスニングポイントを示しながら音声を聞かせていました。何を聴くべきかを意識して聴いているので,生徒の集中が高まっていたと思います。非常に効果的であると感じました。

      特に,最初に先生が問いかけられた,「手紙やeメールの最初には,なんて書くのかな」との問いかけを聴いた時の生徒たちの,「え?」と一気に思考を深めるように変わった変化は,とてもインパクトがありました。

 

      事後の振り返りでも肥沼先生自身がおっしゃられていたように,新出言語材料の導入と,formへの意識を高め,今後のコミュニケーション活動へとつながる布石を打っておられる授業で,公開研究会のときにも,筑波中学校の先生が常に意識されている,「公立の先生方へのメッセージ」「モデル」になるような展開だったと思います。 日頃の授業でも,それをぶらさずに行われているのだと改めて感じました。

 

      音読練習後,即録音,即リフレクション,という流れが有効でした。 無言になり,真剣なムードが一気に高まり,自分の世界に入り込みながら,真剣に自分の音声を聴いている生徒一人一人の真剣さがすばらしかったと思います。

 

  

私が修士論文で研究していたポイント,

 

 先生の問いかけ initiation

 

 生徒の反応 response

 

 先生の返し follow-up

 

 

follow-up部分で,私の研究で見出した結果に重なり,先生がevaluativeに返すときよりも,discoursalな,自然な返しをしたときに,生徒の傾聴が進み,聞き手がactiveになるだけでなく,指名された生徒,インタラクションの相手である生徒も,対話を継続する必要性を感じ,ターンが増えていたことを確認しました。

 

また,follow-upのコメントプラス,追加発問(次のinitiation)をされていることを,久保野先生のインタラクションから確認したことも,研究の結果と重なると思いました。

 

蒔田先生が,follow-upに,+ emotionを重ねていることは,研究で見出せたことを超えるものだったのではないかと思いました。

対話者のことが知りたい,対話者のことに興味がある,というほんものの応答をしているからこそ,できるのだろうと思います。